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第17回 遺言(1)~遺言とは?
相続の問題で、多くの場合、まず最初に確認するのは、「亡くなった人が遺言を作成していたかどうか」です。
この遺言について御説明します。
(1) 遺言の基本
遺言とは、「自分の死後に一定の効果が発生することを意図した故人の最終意思が一定の方式の下で表示されたもの」とされています。
ややこしいですが、一般に理解されているとおり、「自分が死んだら財産は誰それに継がせてくれ」といった内容を文書にして書き残すものとまず考えましょう。
遺言は、法律行為の一種(契約とは違って、一人でできるので「単独行為」と呼ばれます)です。
意味合いとしては、人には、本来、自分の財産は原則として自分の好きなように処分できるという自由があるのですが、その自由を死後にまで拡張する意味があります。
重要なことは、遺言は「要式行為」だということです。つまり、法律(民法)に書いてある通りの方式を守らなければ無効になってしまうということです。
それから、遺言は1人1人するものですので、(夫と妻が連名でするような)共同遺言は禁止されています。これも共同遺言ということになれば無効になってしまいます。
また、遺言で法律的な意味を持つ部分は次の通りと決められています。
遺言事項の限定(以下の通り)
一般財団法人の設立(一般法人法152条2項)や一般財団法人への財産の拠出(同法164条2項),未成年後見人・未成年後見監督人の指定(839条,848条),相続人の廃除や廃除の取消し(893条,894条),相続分の指定や指定委託(902条),特別受益持戻しの免除(903条),遺産分割方法の指定や指定委託(908条),遺産分割の禁止(908条),相続人相互間での担保責任の分担(914条),遺贈(964条),遺言執行者の指定や指定委託(1006条),遺贈の減殺割合の指定(1034条)。
その他,信託法では遺言による信託の設定が認められている(信託法2条2項2号・4条2項。遺言信託)。
また,保険法は,生命保険および傷害疾病定額保険について,遺言による保険金受取人の変更を認めている(保険法44条・73条。保険者への通知が対抗要件である)。
(2) 「遺言の解釈」についての考え方
遺言は、例えば、財産を誰に継がせるかなどについて、自分が死んだ後に、他人にそのことを実現してもらうために書き残すものですから、「何をどうするか」を明確に書くのが望ましいのです。
ですが、場合によっては、抽象的な文言で書かれている場合があります。
たとえば、「自分の財産は,すべて公共に寄与する」との自筆証書遺言を残して死亡した人の例(最判平5・1・19 民集47-1-1参照)があります。
「公共に寄与する」では何のことか具体的には分かりません。
ではこの遺言は無効でしょうか。
判断が難しいところもあるのですが、この例で、最高裁判所は、遺言の文言については
① 可能な限りこれを有効となるように解釈すべきである
② 遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく遺言者の真意を探求すべきである
と述べて、「公共に寄与する」部分の解釈として、
公益目的を達成することの出来る団体等に遺産の全部包括遺贈する
遺言執行者に指定した者に、受遺者として特定のもの選定することを委ねる趣旨である
と考え、そういう意味の遺言として有効であると判断しています。(ですが、遺言を作成する者としては、後日の紛争を避けるため、上記のような抽象的な文言は避けて、例えば「私の財産は全てA市に遺贈する」等とするべきです。)
文 弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所)
この遺言について御説明します。
(1) 遺言の基本
遺言とは、「自分の死後に一定の効果が発生することを意図した故人の最終意思が一定の方式の下で表示されたもの」とされています。
ややこしいですが、一般に理解されているとおり、「自分が死んだら財産は誰それに継がせてくれ」といった内容を文書にして書き残すものとまず考えましょう。
遺言は、法律行為の一種(契約とは違って、一人でできるので「単独行為」と呼ばれます)です。
意味合いとしては、人には、本来、自分の財産は原則として自分の好きなように処分できるという自由があるのですが、その自由を死後にまで拡張する意味があります。
重要なことは、遺言は「要式行為」だということです。つまり、法律(民法)に書いてある通りの方式を守らなければ無効になってしまうということです。
それから、遺言は1人1人するものですので、(夫と妻が連名でするような)共同遺言は禁止されています。これも共同遺言ということになれば無効になってしまいます。
また、遺言で法律的な意味を持つ部分は次の通りと決められています。
遺言事項の限定(以下の通り)
一般財団法人の設立(一般法人法152条2項)や一般財団法人への財産の拠出(同法164条2項),未成年後見人・未成年後見監督人の指定(839条,848条),相続人の廃除や廃除の取消し(893条,894条),相続分の指定や指定委託(902条),特別受益持戻しの免除(903条),遺産分割方法の指定や指定委託(908条),遺産分割の禁止(908条),相続人相互間での担保責任の分担(914条),遺贈(964条),遺言執行者の指定や指定委託(1006条),遺贈の減殺割合の指定(1034条)。
その他,信託法では遺言による信託の設定が認められている(信託法2条2項2号・4条2項。遺言信託)。
また,保険法は,生命保険および傷害疾病定額保険について,遺言による保険金受取人の変更を認めている(保険法44条・73条。保険者への通知が対抗要件である)。
(2) 「遺言の解釈」についての考え方
遺言は、例えば、財産を誰に継がせるかなどについて、自分が死んだ後に、他人にそのことを実現してもらうために書き残すものですから、「何をどうするか」を明確に書くのが望ましいのです。
ですが、場合によっては、抽象的な文言で書かれている場合があります。
たとえば、「自分の財産は,すべて公共に寄与する」との自筆証書遺言を残して死亡した人の例(最判平5・1・19 民集47-1-1参照)があります。
「公共に寄与する」では何のことか具体的には分かりません。
ではこの遺言は無効でしょうか。
判断が難しいところもあるのですが、この例で、最高裁判所は、遺言の文言については
① 可能な限りこれを有効となるように解釈すべきである
② 遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく遺言者の真意を探求すべきである
と述べて、「公共に寄与する」部分の解釈として、
公益目的を達成することの出来る団体等に遺産の全部包括遺贈する
遺言執行者に指定した者に、受遺者として特定のもの選定することを委ねる趣旨である
と考え、そういう意味の遺言として有効であると判断しています。(ですが、遺言を作成する者としては、後日の紛争を避けるため、上記のような抽象的な文言は避けて、例えば「私の財産は全てA市に遺贈する」等とするべきです。)
文 弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所)
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by hideki1975da
| 2012-01-16 16:13
第16回 遺産分割(2)
前回、遺産分割について、
協議
調停
審判
の3つの方法がある、ということを御説明しました。
今回は、それぞれについて説明します。
1 協議分割
まずは、話し合いによって遺産分割をするのが基本です。
共同相続人の合意による遺産分割方法です。
法定相続分や遺言による分割方法の指定と異なる内容での分割も、相続人同士の話し合いがまとまれば可能です。
2 調停分割
協議分割ができないときは、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
調停を申し立てずに、いきなり審判を行うように申し立てることも法律上は一応可能ですが、まずは調停を行うのが原則です。
調停分割においては、遺産分割の当事者は、全員が申立人または相手方にならなければなりません(つまり、3人兄妹が共同相続人であるときに、うち2人だけで調停をするということはできないのです。あくまで3人でやらなければなりません)。
調停の順序は、だいたい次の通りです。
① 相続人の範囲の確定 誰が相続人になるのか?
② 遺言の有無の確定
③ 一応の相続分の確定
④ 遺産の範囲を確定 どの財産が遺産に入るのか?
⑤ 遺産の評価 不動産などは何円と評価するのか?
⑥ 特別受益の有無の確定 誰かが特に被相続人から優遇されてもらったものなどがあるか?
⑦ 寄与分の有無の確定 誰かが遺産を増やすために特別の貢献をしたか?
⑧ 相続開始時の具体的相続分率を確定
⑨ 具体的相続分率をもとに、遺産分割時における各自の取得分額を算定
⑩ 遺産分割方法の決定 具体的に、何をどうわけるか?
3 審判分割
(1) 協議が整わないときなど → 各共同相続人は家裁に審判を請求できます
調停(家裁)が成立しないとき → 審判に移行します。
(2) 遺産相続の審判は、相続開始地(被相続人の最後の住所地)の家裁で行います。
(3) 相続分に従った分割
審判では、法の定めに従って計算された相続分に従った分割がなされます。
(4) 原則として現物分割をします。しかし、分割が不可能又は不適切な場合には、価額分割、代償分割等の方法をとることがあります。
4 遺言による遺産分割方法の指定
(1) 遺言により「分割方法が指定」されているものは、遺言に従って分割します。
この場合でも、実際に分割するには、遺産分割手続(協議、調停、審判)を行う必要があります。
(2) 「相続させる」遺言
【参考図書より引用 ケース】
Aは,公正証書遺言で,「甲土地を長男Xに相続させる」との一文を残して死亡した。相続人は,妻Wと子X・Yである。
「相続させる」とはどういう意味でしょうか?「遺贈」するということでしょうか?「遺産分割の方法を指定した」ということでしょうか?
判例(最高裁.平成3年)によれば、「相続させる」と書いた遺言は、
・ 遺産分割の方法を指定した遺言である
・ 原則として、何らの行為も要せずに、被相続人の死亡時に直ちにその遺産が当該「特定の相続人」に承継される。
とのことであり、こういう遺言も有効です。
(以前は、「遺贈」をするよりも「遺産分割方法の指定」をするほうが、登記に必要な登録手数料が安く上がったということから、「相続させる」の意味が活発に論じられたのですが、2003年(平成15年)から登録免許税法が改正され、相続による登記の場合でも遺贈による登記の場合でも同一の税率となったため、登録手数料に関してはこの議論は意味が無くなっています。)
文 弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所)
協議
調停
審判
の3つの方法がある、ということを御説明しました。
今回は、それぞれについて説明します。
1 協議分割
まずは、話し合いによって遺産分割をするのが基本です。
共同相続人の合意による遺産分割方法です。
法定相続分や遺言による分割方法の指定と異なる内容での分割も、相続人同士の話し合いがまとまれば可能です。
2 調停分割
協議分割ができないときは、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
調停を申し立てずに、いきなり審判を行うように申し立てることも法律上は一応可能ですが、まずは調停を行うのが原則です。
調停分割においては、遺産分割の当事者は、全員が申立人または相手方にならなければなりません(つまり、3人兄妹が共同相続人であるときに、うち2人だけで調停をするということはできないのです。あくまで3人でやらなければなりません)。
調停の順序は、だいたい次の通りです。
① 相続人の範囲の確定 誰が相続人になるのか?
② 遺言の有無の確定
③ 一応の相続分の確定
④ 遺産の範囲を確定 どの財産が遺産に入るのか?
⑤ 遺産の評価 不動産などは何円と評価するのか?
⑥ 特別受益の有無の確定 誰かが特に被相続人から優遇されてもらったものなどがあるか?
⑦ 寄与分の有無の確定 誰かが遺産を増やすために特別の貢献をしたか?
⑧ 相続開始時の具体的相続分率を確定
⑨ 具体的相続分率をもとに、遺産分割時における各自の取得分額を算定
⑩ 遺産分割方法の決定 具体的に、何をどうわけるか?
3 審判分割
(1) 協議が整わないときなど → 各共同相続人は家裁に審判を請求できます
調停(家裁)が成立しないとき → 審判に移行します。
(2) 遺産相続の審判は、相続開始地(被相続人の最後の住所地)の家裁で行います。
(3) 相続分に従った分割
審判では、法の定めに従って計算された相続分に従った分割がなされます。
(4) 原則として現物分割をします。しかし、分割が不可能又は不適切な場合には、価額分割、代償分割等の方法をとることがあります。
4 遺言による遺産分割方法の指定
(1) 遺言により「分割方法が指定」されているものは、遺言に従って分割します。
この場合でも、実際に分割するには、遺産分割手続(協議、調停、審判)を行う必要があります。
(2) 「相続させる」遺言
【参考図書より引用 ケース】
Aは,公正証書遺言で,「甲土地を長男Xに相続させる」との一文を残して死亡した。相続人は,妻Wと子X・Yである。
「相続させる」とはどういう意味でしょうか?「遺贈」するということでしょうか?「遺産分割の方法を指定した」ということでしょうか?
判例(最高裁.平成3年)によれば、「相続させる」と書いた遺言は、
・ 遺産分割の方法を指定した遺言である
・ 原則として、何らの行為も要せずに、被相続人の死亡時に直ちにその遺産が当該「特定の相続人」に承継される。
とのことであり、こういう遺言も有効です。
(以前は、「遺贈」をするよりも「遺産分割方法の指定」をするほうが、登記に必要な登録手数料が安く上がったということから、「相続させる」の意味が活発に論じられたのですが、2003年(平成15年)から登録免許税法が改正され、相続による登記の場合でも遺贈による登記の場合でも同一の税率となったため、登録手数料に関してはこの議論は意味が無くなっています。)
文 弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所)
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by hideki1975da
| 2012-01-16 16:02
第15回 遺産分割(1)
1 遺産分割とは
相続が発生する(被相続人が死亡する)と、その瞬間から、相続分の割合で、各相続人は遺産を共有します。例えば、父が死亡し、妻と子2人の場合は、妻1/2、子それぞれ1/4などの割合で「共有」となるのです。
しかし、この遺産共有状態は、あくまでも一時的なものです。
それぞれの遺産(例えば、A土地、B建物など)が、最終的に誰のものになるのか、ということは、「遺産分割」をして決めなければなりません。
遺産共有 → 遺産分割
2 遺産分割の方法
(1) 手続
協議、調停、審判があります。
まずは、お互いの話し合い(協議)をやって、それが整わないとき、家庭裁判所に調停又は審判を申し立てることになります。
(2) 分割方法
単純な現物分割(たとえば、「遺産中のA土地を半分ずつに分割して、2人の相続人が取得する。」と言う場合や、「遺産中の不動産については長男、金融資産については次男が取得する。」という場合など。)
というほかに、
換価分割(遺産中のA土地を売却して、その代金を相続人が分ける)
代償分割(遺産中にある土地建物について、長男が取得した上で、次男に対して代償金を支払うことにする)
全面的価格賠償による分割(解説省略)
などがあります。
相続人それぞれの事情(建物に住む必要、金銭を用意できる状況かどうかなど)に応じて、適した方法をとるということが原則になります。
3 遺産分割の対象
遺産分割時の(に存在している)相続財産を対象にします。
4 遺産分割の当事者
次の通りです。
(1) 共同相続人・包括受遺者・相続分譲受人
(2) 遺言執行者
(3) 不在者が居る場合
利害関係人(他の相続人など)が、家庭裁判所に対し、不在者財産管理人の選任を請求して、不在者財産管理人をたててもらい、その不在者財産管理人を当事者として、遺産分割の手続を行います。
(4) 胎児がいる場合
出生を待って遺産分割を行います。出生したら(5)「未成年者」の項目記載のとおりになります。
(5) 未成年者(など制限行為能力者)がいる場合
親権者が法定代理人となります。
しかし、そうなると、親権者と子とが両方とも相続人である場合にややこしい問題が生じます。
つまり、親権者が、自分と子との両方の立場で遺産分割をしなければならない事態になり、こういう場合を「利益相反」にあたるといいます。(子と親との利害が相反する=対立するということです。)
たとえば、父が死亡した場合の相続では、母子とも相続人となります。
そのような場合は、母が子を代理していては「利害相反」となり、悪い見方をすれば、母が子の利益を犠牲にして自分の利益を図ることも可能になりますから、そのままでは問題があります。
そこで、「利害相反」になる場合には、親権者(法定代理人)のほかに、特別代理人を選任する必要があり、この場合は、親権者ではなく、特別代理人が未成年者の代理として遺産分割の手続に参加します。
成年後見人と成年被後見人(本人)が共同相続人となる場合も同様のことがあります。
5 遺産分割の時期
(1) 分割請求の自由
原則 各相続人は、いつでも自由に遺産分割請求できることになっています。
(2) 分割禁止(例外)
① 遺言による一定期間の分割禁止
「自分の死後、遺産を4年間、分割してはならない」遺言などがある場合は、それに従います。
5年以内ならば遺言で分割禁止とすることが可能(民908条)とされています。
② 協議・調停による分割禁止
個別財産について、民法の共有の規定に基づき、5年を限度として分割禁止の契約・調停が可能とされています。
③ 審判による分割禁止
家庭裁判所は特別の事由があるときに限り、期間を定めて遺産の全部または一部について分割の禁止をすることができるとされています(民法907条3項)。
6 遺産分割の効果
(1) 遺産分割の遡及効
民法909条本文「遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。」とされています。
この「さかのぼる」効果のことを「遡及効(そきゅうこう)」といいます。
【ケース】(参考文献より引用)
1995年5月10日にAが死亡し,妻Wと子X・Yが相続した。
協議が重ねられた結果,A死亡後5年を経てようやく,遺産のうちの甲土地についてはX,乙建物についてはY,現金はWが承継するものということになった。
★ この場合、2000年に遺産分割がなされたのですが、民法909条本文により、「遡及効(さかのぼる効果)」によって、1995年A死亡の時点から、甲土地はX、乙土地はY、現金はWの所有であったということになります。
(2) 「ただし、第三者の権利を害することはできない」(909条但書)
上記の「遡及効(さかのぼる効果)」は、共同相続人同士の間では、別にそれで構わないかもしれません。
しかし、たとえば、上記のケースで、甲土地がXYZの共有であるということを前提にして、誰かが持つ共有持分を買った人(取引関係に入った人)に迷惑が及ぶかもしれません。
そこで、法律は、もし、上記のケースで、たとえば、第三者のSさんが、甲土地のZの共有持分を1998年(A死亡の後、遺産分割前)に譲り受け、登記をしていたとすれば、Sさんが譲り受けた共有持分の権利は保護するということにしています。
この点は、すこしややこしい問題ですが、「遡及効」が共同相続人以外の(事情をよく知らないかも知れない)第三者に迷惑を及ぼさないように民法はバランスをとっている、という風に理解できます。
文 弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所)
相続が発生する(被相続人が死亡する)と、その瞬間から、相続分の割合で、各相続人は遺産を共有します。例えば、父が死亡し、妻と子2人の場合は、妻1/2、子それぞれ1/4などの割合で「共有」となるのです。
しかし、この遺産共有状態は、あくまでも一時的なものです。
それぞれの遺産(例えば、A土地、B建物など)が、最終的に誰のものになるのか、ということは、「遺産分割」をして決めなければなりません。
遺産共有 → 遺産分割
2 遺産分割の方法
(1) 手続
協議、調停、審判があります。
まずは、お互いの話し合い(協議)をやって、それが整わないとき、家庭裁判所に調停又は審判を申し立てることになります。
(2) 分割方法
単純な現物分割(たとえば、「遺産中のA土地を半分ずつに分割して、2人の相続人が取得する。」と言う場合や、「遺産中の不動産については長男、金融資産については次男が取得する。」という場合など。)
というほかに、
換価分割(遺産中のA土地を売却して、その代金を相続人が分ける)
代償分割(遺産中にある土地建物について、長男が取得した上で、次男に対して代償金を支払うことにする)
全面的価格賠償による分割(解説省略)
などがあります。
相続人それぞれの事情(建物に住む必要、金銭を用意できる状況かどうかなど)に応じて、適した方法をとるということが原則になります。
3 遺産分割の対象
遺産分割時の(に存在している)相続財産を対象にします。
4 遺産分割の当事者
次の通りです。
(1) 共同相続人・包括受遺者・相続分譲受人
(2) 遺言執行者
(3) 不在者が居る場合
利害関係人(他の相続人など)が、家庭裁判所に対し、不在者財産管理人の選任を請求して、不在者財産管理人をたててもらい、その不在者財産管理人を当事者として、遺産分割の手続を行います。
(4) 胎児がいる場合
出生を待って遺産分割を行います。出生したら(5)「未成年者」の項目記載のとおりになります。
(5) 未成年者(など制限行為能力者)がいる場合
親権者が法定代理人となります。
しかし、そうなると、親権者と子とが両方とも相続人である場合にややこしい問題が生じます。
つまり、親権者が、自分と子との両方の立場で遺産分割をしなければならない事態になり、こういう場合を「利益相反」にあたるといいます。(子と親との利害が相反する=対立するということです。)
たとえば、父が死亡した場合の相続では、母子とも相続人となります。
そのような場合は、母が子を代理していては「利害相反」となり、悪い見方をすれば、母が子の利益を犠牲にして自分の利益を図ることも可能になりますから、そのままでは問題があります。
そこで、「利害相反」になる場合には、親権者(法定代理人)のほかに、特別代理人を選任する必要があり、この場合は、親権者ではなく、特別代理人が未成年者の代理として遺産分割の手続に参加します。
成年後見人と成年被後見人(本人)が共同相続人となる場合も同様のことがあります。
5 遺産分割の時期
(1) 分割請求の自由
原則 各相続人は、いつでも自由に遺産分割請求できることになっています。
(2) 分割禁止(例外)
① 遺言による一定期間の分割禁止
「自分の死後、遺産を4年間、分割してはならない」遺言などがある場合は、それに従います。
5年以内ならば遺言で分割禁止とすることが可能(民908条)とされています。
② 協議・調停による分割禁止
個別財産について、民法の共有の規定に基づき、5年を限度として分割禁止の契約・調停が可能とされています。
③ 審判による分割禁止
家庭裁判所は特別の事由があるときに限り、期間を定めて遺産の全部または一部について分割の禁止をすることができるとされています(民法907条3項)。
6 遺産分割の効果
(1) 遺産分割の遡及効
民法909条本文「遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。」とされています。
この「さかのぼる」効果のことを「遡及効(そきゅうこう)」といいます。
【ケース】(参考文献より引用)
1995年5月10日にAが死亡し,妻Wと子X・Yが相続した。
協議が重ねられた結果,A死亡後5年を経てようやく,遺産のうちの甲土地についてはX,乙建物についてはY,現金はWが承継するものということになった。
★ この場合、2000年に遺産分割がなされたのですが、民法909条本文により、「遡及効(さかのぼる効果)」によって、1995年A死亡の時点から、甲土地はX、乙土地はY、現金はWの所有であったということになります。
(2) 「ただし、第三者の権利を害することはできない」(909条但書)
上記の「遡及効(さかのぼる効果)」は、共同相続人同士の間では、別にそれで構わないかもしれません。
しかし、たとえば、上記のケースで、甲土地がXYZの共有であるということを前提にして、誰かが持つ共有持分を買った人(取引関係に入った人)に迷惑が及ぶかもしれません。
そこで、法律は、もし、上記のケースで、たとえば、第三者のSさんが、甲土地のZの共有持分を1998年(A死亡の後、遺産分割前)に譲り受け、登記をしていたとすれば、Sさんが譲り受けた共有持分の権利は保護するということにしています。
この点は、すこしややこしい問題ですが、「遡及効」が共同相続人以外の(事情をよく知らないかも知れない)第三者に迷惑を及ぼさないように民法はバランスをとっている、という風に理解できます。
文 弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所)
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| 2012-01-12 15:10
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誰にでもわかる平たい言葉で、相続法を解説するブログです。 神戸シーサイド法律事務所所属 弁護士村上英樹
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第26回 遺留分(4)~遺留.. |
at 2012-03-21 19:28 |
第25回 遺留分(3)~遺留.. |
at 2012-03-09 18:27 |
第23回 遺留分(1)~遺留.. |
at 2012-03-05 19:12 |
第24回 遺留分(2)~遺留.. |
at 2012-03-02 17:56 |