第25回 遺留分(3)~遺留分の計算
今回は、遺留分の計算についてお話しします。
「遺留分を算定するときの基礎財産」についてのお話しです。
この「基礎財産」の金額に、前回お話しした遺留分の割合(たとえば、妻と子2人の場合、子の遺留分は、1/2*1/4=1/8など)をかけて、個人の遺留分の金額が決まります。
(1) 基礎財産とは?
遺留分率をもとに相続人各自の遺留分を算定するときの基礎となる財産のことで、その全体の価額が問題になります。
(2) 基礎財産の確定
① 基本的算定の公式は次の通りです。(民法1029条1項)
基礎財産 = 【被相続人が相続開始時点で有していた財産】
+ 【贈与した財産】
-【相続債務】
※ 「みなし相続財産」「具体的相続分」の算定との違いは次の通りです。
ⅰ 「寄与分」は考慮されません。
ⅱ 「相続債務」が控除されます。
ⅲ 組み込まれる贈与財産に違いがあるし、対象となる受贈者は共同相続人に限られない (←少し細かいです。ややこしければ、気にしないで下さい。)
② 基礎財産にあたるかどうか?
★ 基礎財産にあたるものが大きいほど、それに遺留分の割合をかけて計算される金額(実際に請求できる遺留分額)も大きくなります。なので、遺留分権利者に有利になります。
(a) 「被相続人が相続開始時点で有していた財産」とは、相続人が承継した積極財産(+の財産。不動産、預金、貸金、現金などなど)のことをいいます。
(b) 条件付権利・存続期間が不確定な権利を何円と評価するかは、家庭裁判所が鑑定した鑑定人の評価に従う(民法1029条2項)。
(c) 遺贈された目的物を基礎財産に含めて計算します。
(d) 生命保険金の処理
【参考図書にあげられているケース】
Aには妻Wと子X・Yがいる。
Aは10年来,Fと不倫の関係にある。
Aは,P生命保険会社との間で死亡保険金1億円の保険契約に加入し,受取人の欄に「F」と書いた。その後にAが死亡した。
生命保険金を、遺留分を計算するときの基礎財産に含めて計算するかどうかについて、学説は分かれています。
判例は否定しています(最高裁判決平成14年11月5日。1030条による「贈与」もしくは「遺贈」に準じるものとはいえない、としています)。
(e) 死亡退職金は、基礎財産の計算に入れないのが相当と考えられます。
∵ 死亡退職金は、支給を受ける遺族の生活保障を目的としたものだからです。
③ 贈与財産の加算のしかたについて
民法1030条に定められています。
(a) 原則 相続開始前1年間にされた贈与に限られる、とされています。
(b) 例外その1
遺留分権利者に損害を加えることを知ってされた贈与 も含まれる、とされています。
(この場合、相続開始の1年よりも前になされたものも含まれるということです。)
【参考図書に挙げられているケース】
Aには妻Wと子X・Yがおり,かつ両親P・Qも健在である。
Aは3年前に,Fと不倫の関係におちいり,もし自分に万一のことがあったら家族が将来経済的に困窮することを承知のうえで,自分の預金4,000万円を引き出し,これをFに贈与した。その後にAが死亡した。
★ この場合、Aさんは「家族が将来的に経済的に困窮することを承知のうえで」Fに金銭を贈与したので、「遺留分権利者に損害を加えることを知ってされた贈与」にあたり、この贈与額を遺留分を計算する基礎の財産に含めて計算しなければならない、というわけです。
この贈与額が計算に入ることによって、その分、遺留分権利者(W,X,Y)が請求できる遺留分の金額が大きくなります。
(c) 例外その2
Ⅰ 基礎財産確定にあたっての特別受益の持ち戻し
【参考図書にあげられているケース】
Aには,妻Wと子X・Yがいる。
Aは,40年前にXが結婚する際に,持参金として300万円(相続時の価値にして3,200万円)をXに持たせた。
Aが死亡したが,遺産としては800万円ほどしか存在していない。
民法1044条により、遺留分についても903条(特別受益の規定)が準用されています。
→ 共同相続人の1人に対し婚姻・養子縁組のため、または生計の資本としてされた贈与については、相続開始1年前であるかどうかとは関係なく、また、損害を加えることの認識があってもなくても、遺留分算定の基礎財産に含めて計算します。
Ⅱ 持ち戻し免除と遺留分減殺請求権
持ち戻し免除は、下のケースのように、亡くなった人が誰かに金銭を贈与するなどしたうえで、さらに、「その贈与は、遺産分割の時に、持ち戻して計算しなくて良い」と意思表示することです。
【参考図書に挙げられているケース】
Aには,妻Wと子X・Y・Zがいる。
Aは,公認会計士試験を受験し続けているZに対して大学の学費・予備校の受講料,下宿代などを5年にわたって援助しているが,Zはいまだ合格通知を得ていない。その金額は既に1,000万円を超えている。
過労で倒れたAは,「Zの将来に期待して援助してやっているのだから,自分に何かのことがあっても,遺産を分配するときには,Zのために支払ってやった費用はけっして考慮してはならぬ」との遺言を残して死亡した。
民法903条3項で、持ち戻し免除の意思表示については、「遺留分に関する規定に違反しない範囲内で」だけ有効とされています。
逆に言えば、遺留分の規定に反する結果になってはならないと解釈できます。
判例は、持ち戻し免除の意思表示をしても、遺留分を算定する場合の基礎財産に算入すべきである(最判平成10年3月24日)としています。
(d) 例外その3
不相当な対価でされた有償行為(極端な場合、価値のある土地を「1円」で売った、など)
→ 正当な価額との差額が贈与として基礎財産に算入される、と定められています。
(1039条前段)
④ 遺産債務は控除する。
借金は遺留分の全体金額から差し引く、ということです。
(3) 基礎財産の評価時期と評価方法
① 評価時期は相続開始時です。
② 評価方法
(a) 目的物が相続開始後に増減している場合には、相続開始時(被相続人が死亡したとき)の「原状」で評価する。
例 家屋のリフォームがあった場合
(b) 相続開始時点(被相続人が死亡したとき)を基準に価額評価(貨幣価値も相続開始時に換算)します。
(c) 債権
名目額(額面額)ではなく、債務者の資力や担保の有無を考慮し、取引価額を算定します。
ですので、全く返してもらえる見込みのない貸金などは「0円」になります。
文 弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所)
「遺留分を算定するときの基礎財産」についてのお話しです。
この「基礎財産」の金額に、前回お話しした遺留分の割合(たとえば、妻と子2人の場合、子の遺留分は、1/2*1/4=1/8など)をかけて、個人の遺留分の金額が決まります。
(1) 基礎財産とは?
遺留分率をもとに相続人各自の遺留分を算定するときの基礎となる財産のことで、その全体の価額が問題になります。
(2) 基礎財産の確定
① 基本的算定の公式は次の通りです。(民法1029条1項)
基礎財産 = 【被相続人が相続開始時点で有していた財産】
+ 【贈与した財産】
-【相続債務】
※ 「みなし相続財産」「具体的相続分」の算定との違いは次の通りです。
ⅰ 「寄与分」は考慮されません。
ⅱ 「相続債務」が控除されます。
ⅲ 組み込まれる贈与財産に違いがあるし、対象となる受贈者は共同相続人に限られない (←少し細かいです。ややこしければ、気にしないで下さい。)
② 基礎財産にあたるかどうか?
★ 基礎財産にあたるものが大きいほど、それに遺留分の割合をかけて計算される金額(実際に請求できる遺留分額)も大きくなります。なので、遺留分権利者に有利になります。
(a) 「被相続人が相続開始時点で有していた財産」とは、相続人が承継した積極財産(+の財産。不動産、預金、貸金、現金などなど)のことをいいます。
(b) 条件付権利・存続期間が不確定な権利を何円と評価するかは、家庭裁判所が鑑定した鑑定人の評価に従う(民法1029条2項)。
(c) 遺贈された目的物を基礎財産に含めて計算します。
(d) 生命保険金の処理
【参考図書にあげられているケース】
Aには妻Wと子X・Yがいる。
Aは10年来,Fと不倫の関係にある。
Aは,P生命保険会社との間で死亡保険金1億円の保険契約に加入し,受取人の欄に「F」と書いた。その後にAが死亡した。
生命保険金を、遺留分を計算するときの基礎財産に含めて計算するかどうかについて、学説は分かれています。
判例は否定しています(最高裁判決平成14年11月5日。1030条による「贈与」もしくは「遺贈」に準じるものとはいえない、としています)。
(e) 死亡退職金は、基礎財産の計算に入れないのが相当と考えられます。
∵ 死亡退職金は、支給を受ける遺族の生活保障を目的としたものだからです。
③ 贈与財産の加算のしかたについて
民法1030条に定められています。
(a) 原則 相続開始前1年間にされた贈与に限られる、とされています。
(b) 例外その1
遺留分権利者に損害を加えることを知ってされた贈与 も含まれる、とされています。
(この場合、相続開始の1年よりも前になされたものも含まれるということです。)
【参考図書に挙げられているケース】
Aには妻Wと子X・Yがおり,かつ両親P・Qも健在である。
Aは3年前に,Fと不倫の関係におちいり,もし自分に万一のことがあったら家族が将来経済的に困窮することを承知のうえで,自分の預金4,000万円を引き出し,これをFに贈与した。その後にAが死亡した。
★ この場合、Aさんは「家族が将来的に経済的に困窮することを承知のうえで」Fに金銭を贈与したので、「遺留分権利者に損害を加えることを知ってされた贈与」にあたり、この贈与額を遺留分を計算する基礎の財産に含めて計算しなければならない、というわけです。
この贈与額が計算に入ることによって、その分、遺留分権利者(W,X,Y)が請求できる遺留分の金額が大きくなります。
(c) 例外その2
Ⅰ 基礎財産確定にあたっての特別受益の持ち戻し
【参考図書にあげられているケース】
Aには,妻Wと子X・Yがいる。
Aは,40年前にXが結婚する際に,持参金として300万円(相続時の価値にして3,200万円)をXに持たせた。
Aが死亡したが,遺産としては800万円ほどしか存在していない。
民法1044条により、遺留分についても903条(特別受益の規定)が準用されています。
→ 共同相続人の1人に対し婚姻・養子縁組のため、または生計の資本としてされた贈与については、相続開始1年前であるかどうかとは関係なく、また、損害を加えることの認識があってもなくても、遺留分算定の基礎財産に含めて計算します。
Ⅱ 持ち戻し免除と遺留分減殺請求権
持ち戻し免除は、下のケースのように、亡くなった人が誰かに金銭を贈与するなどしたうえで、さらに、「その贈与は、遺産分割の時に、持ち戻して計算しなくて良い」と意思表示することです。
【参考図書に挙げられているケース】
Aには,妻Wと子X・Y・Zがいる。
Aは,公認会計士試験を受験し続けているZに対して大学の学費・予備校の受講料,下宿代などを5年にわたって援助しているが,Zはいまだ合格通知を得ていない。その金額は既に1,000万円を超えている。
過労で倒れたAは,「Zの将来に期待して援助してやっているのだから,自分に何かのことがあっても,遺産を分配するときには,Zのために支払ってやった費用はけっして考慮してはならぬ」との遺言を残して死亡した。
民法903条3項で、持ち戻し免除の意思表示については、「遺留分に関する規定に違反しない範囲内で」だけ有効とされています。
逆に言えば、遺留分の規定に反する結果になってはならないと解釈できます。
判例は、持ち戻し免除の意思表示をしても、遺留分を算定する場合の基礎財産に算入すべきである(最判平成10年3月24日)としています。
(d) 例外その3
不相当な対価でされた有償行為(極端な場合、価値のある土地を「1円」で売った、など)
→ 正当な価額との差額が贈与として基礎財産に算入される、と定められています。
(1039条前段)
④ 遺産債務は控除する。
借金は遺留分の全体金額から差し引く、ということです。
(3) 基礎財産の評価時期と評価方法
① 評価時期は相続開始時です。
② 評価方法
(a) 目的物が相続開始後に増減している場合には、相続開始時(被相続人が死亡したとき)の「原状」で評価する。
例 家屋のリフォームがあった場合
(b) 相続開始時点(被相続人が死亡したとき)を基準に価額評価(貨幣価値も相続開始時に換算)します。
(c) 債権
名目額(額面額)ではなく、債務者の資力や担保の有無を考慮し、取引価額を算定します。
ですので、全く返してもらえる見込みのない貸金などは「0円」になります。
文 弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所)
by hideki1975da
| 2012-03-09 18:27
誰にでもわかる平たい言葉で、相続法を解説するブログです。 神戸シーサイド法律事務所所属 弁護士村上英樹
by hideki1975da
カテゴリ
全体未分類
外部リンク
検索
以前の記事
2012年 12月2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 10月
2011年 09月
最新の記事
もくじ |
at 2012-12-31 14:59 |
第26回 遺留分(4)~遺留.. |
at 2012-03-21 19:28 |
第25回 遺留分(3)~遺留.. |
at 2012-03-09 18:27 |
第23回 遺留分(1)~遺留.. |
at 2012-03-05 19:12 |
第24回 遺留分(2)~遺留.. |
at 2012-03-02 17:56 |