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第22回 遺言(6)~遺贈

 今回は、「遺贈」について解説します。
 「遺言」によって財産を「贈る」、という意味にとっていただければよいです。

 今回は少し細かな記述が多いです。特に関心がない方は、読み飛ばして頂いて結構です。
 
1 遺贈の意義

 遺贈は、被相続人が遺言によって他人(受遺者)に自己の財産を与える処分行為(964条)であるとされています。
 遺贈と似たものに「死因贈与」というものがあります。法学部生など以外の方は、特に自分のことで問題にぶつからなければ深く考えなくても良いですが、違いを図解しますと、次の通りです。

遺贈        ≠     死因贈与

単独行為 契約
要式行為 不要式行為

2 遺贈の種類
(1) 特定遺贈と包括遺贈

 遺贈には、特定の財産を譲る「特定遺贈」と、財産の何割か(または全部)をひとまとめにして譲る「包括遺贈」という区別があります。

① 特定遺贈

例 「甲不動産をXに譲る。」
「自分の保有するA社の株式1万株のうち、1000株をXに譲る。」


② 包括遺贈
(a) 包括遺贈とは、遺産の全部または一定割合で示された部分の遺産を受遺者に与える処分行為のことをいいます。

  例「自分の財産全部をXに譲る。」
「自分の財産の3分の2をX財団に寄付する。」

 (b) 民法990条によれば、「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。」とされています。
 その意味は「包括遺贈」を受けた人は、たとえば、遺産の2分の1を相続した相続人と同じように、遺産のある割合をひとまとめにして譲り受けているので、その意味では相続人に近い立場にあるから、相続人同様の立場に立つ、ということです。

③ 包括遺贈を受ける地位にある人(包括受遺者)が「相続人」と同様の扱いを受ける場合には、具体的には次のようなことになります。
(a) 「相続人」と同様に、遺贈について、放棄、単純承認、限定承認ができます。いらない、と思えば放棄できるというわけです。

(b) 遺産分割などについて包括受遺者は、相続人と同様に扱われます。

   ですので、相続人ではない人が包括受遺者になっているとき、相続人とともに、遺産分割協議に参加することになります。
 そして、包括受遺者がいるときには、包括受遺者も一緒に遺産分割をするのでなければ(包括受遺者を外して遺産分割してしまったりすると)、遺産分割は無効になってしまいます。


 (c) なお包括遺贈についても遺留分減殺請求の対象となります。

④ 包括受遺者は原則として「相続人」と同じ扱いといっても、次のような点では、「相続人」と異なる扱いになります。(ややこしかったら読み飛ばして下さい。)
(a) 法人は相続人になれないが、包括受遺者になれる。
(b) 包括受遺者には代襲制度はない。
(c) 包括受遺者に遺留分権はない。
(d) 割合的包括遺贈の場合、受遺分は固定される。他の共同相続人に放棄があっても、受遺分は増加しない。
(e) 包括遺贈の場合に、遺贈される財産中に不動産が含まれているとき、遺贈による登記は共同申請となるのに対して、相続による登記では単独申請で手続がおこなわわれる。


(2) 条件つき遺贈
遺贈には、停止条件や解除条件をつけることができます。

【参考図書に挙げられているケース】
畜産業を専業とするAは病に倒れた後に自筆証書遺言を残し,その中で,「長男B(当時20歳の畜産学部学生)に甲土地ほか畜産施設すべてを譲り渡すが,Bが畜産業を継がなかったときや途中で経営を断念したときには,甲土地ほかこれらの施設を売却し,売買代金を各自の相続分にしたがって分配せよ」と記し,その直後に死亡した。


【上同・ケース】
Aは,公正証書遺言を残し,その中で,「自分の所有する乙建物を妻Wに譲る。妻Wが自分よりも前に,または自分と同時に死亡したときには,乙建物をDに譲る」と記していた。



(3) 負担つき遺贈(1027条)
  
  遺贈では、財産を譲る代わりに、一定の負担も負わせる、という風にすることができます。

① 負担の内容は遺贈される対象と関係が無くてもかまいません。
② 負担が履行されることによって利益を受ける者(受益者)は、相続人であっても良いし、第三者であっても良いとされています。

【参考図書に挙げられているケース】
個人医院を経営するAは,公正証書遺言を残し,その中で,「病院の施設全部をD(自分の子Xの夫である医師)に譲るが,Dは私の妻Wが存命中,その生活の一切について面倒をみること」と記した。


③ 負担の額が遺贈される対象の価額を上回るときには、受遺者は、その対象の価額を上限として負担の履行義務が生じます(1002条1項)。
 要するに、自分がもらえる分を限度として負担を負えばよい、ということになります。
 「負担付き遺贈」の場合に負担のほうが大きくなってしまわないように、という条文です。

【参考図書に挙げられているケース】
Aは,自筆証書遺言を残し,その中で,「遺産の中から500万円をDに譲るが,Dは私の遺稿集として私が書き綴った俳句を集めた句集を出版せよ」と記した。
Aの死後,Dは,句集の出版に奔走したが,Aが欲したであろうと考えられる品質の句集だと500万円ではとうてい足りず,紙の質を落とし印刷レベルを下げたならば,ある出版社において670万円で引き受けてくれることがわかった。

→この場合は、Dとしては、遺贈される500万円の範囲で「負担」である句集の出版をすればよい、ということになります。


④ 受遺者が負担を履行しない場合、相続人は、相当の期間を定めて催告をし、その期間が過ぎたときに、遺贈の取消を家庭裁判所に請求することが出来ます(1027条)。


3 遺贈の当事者

 ここから、遺贈に関する登場人物と、それぞれの権利関係について説明します。

(1) 遺贈者
 遺贈をした被相続人(死亡した人)です。

(2) 遺贈義務者
相続人(不存在の場合は相続財産法人)
遺言執行者が代理人として行為する場合もあります。

例えば、遺贈による不動産登記をする場合、受遺者(登記権利者)と相続人(登記義務者)との共同申請による必要があります。
  
(3) 受遺者
  遺贈によって相続財産を与えられた者
① 相続人であっても、相続人以外でもかまいません。
② 自然人に限らず、法人であってもかまいません。
③ 受遺者は、遺言の効力が発生した時点で存在している必要があります(「遺贈」に関しては、胎児は既に生まれたものとみなされます。民法965条。)
④ 遺言の効力が発生する以前に受遺者が死亡したとき
 → 遺贈は無効となります。(994条1項)
⑤ 停止条件付遺贈で、停止条件が成就する前に受遺者が死亡したとき
 → 遺言者が遺言に別段の意思(例 遺贈の再指定)を表示しているのでなければ、遺贈は無効となります(994条2項)
⑥ 受遺者は遺贈を放棄することが出来るます。
⑦ 「受遺欠格」(965条は、相続欠格に関する891条を準用している。)という制度があります。


4 遺贈の承認・放棄
① 遺贈の放棄
(a) 特定遺贈の場合

遺贈を放棄できます(986条1項)。

(b) 包括遺贈の場合

【参考図書に挙げられているケース】
Aには,妻Wと子X・Yがいる。Aは「自分の遺産の3分の2をYに譲る」との自筆証書遺言を残して死亡した。
Yは,この遺言の内容を知ったが,自分だけが多くを受け取るのは好ましくないと考えている。

包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(990条)ので
→ 915条など  相続の承認・放棄と同じルールが適用され、それに従い「放棄」できます。

② 放棄の時期(特定遺贈の場合)
(a) いつでもできる。時期制限無し。
(b) ただし、相続人や利害関係人から、受遺者への催告権。
相当期間を定めて催告し、返答がなければ、遺贈を承認したものとみなされます(987条)。
これは法的関係の安定のため、遺贈を承認するか放棄するかを早く決めさせることができようになっているのです。

③ 放棄の方式(特定遺贈の場合)
  単独行為。
  遺贈義務者(相続人)または遺言執行者に対する意思表示によってできます。
  家裁での申述は不要です。

④ 放棄の効果(特定遺贈の場合)
(a) 放棄は、死亡時点に遡って効力を生じます。
(b) 「負担付遺贈」の放棄の効果は次の通りです。
  
原則として、負担の受益者がみずから受遺者になることができます(1002条2項)。

【参考図書で挙げられているケース】
Aは,「自分の経営する甲医院を,自分の死後は,長女Xの夫である医師Dに譲るが,Dは,Xとともに自分の妻Wを終生介護し生活の面倒をみること」との公正証書遺言を残して死亡した。
しかし,Dは,この遺贈を放棄した。


→ここでは、Dが遺贈を放棄した結果、甲医院はW(負担の受益者)が取得することになります。

(c) 遺贈の承認・放棄前の受遺者の死亡

【参考図書で挙げられているケース】
Aは「甲土地をDに譲る」との遺言を残して死亡した。
ところが,A死亡の直後に,Dも急死し,妻W,子X・Y・ZがDを相続した。


受遺者であったDの相続人であるWXYZ各自が相続分に従い、単独で、自分の相続分について遺贈の承認・放棄をすることができる(988条)ことになります。

(d) 遺贈の承認・放棄は原則として撤回できません。


 5 遺贈が無効になる場合、失効する場合。その場合、遺贈目的物はどうなるのか?
   
   遺贈の無効   遺言の方式違反など
           遺言者が死亡する以前に受遺者が死亡した場合
           条件成就前に受遺者が死亡した場合

遺贈の失効 遺贈の放棄による

→ これらの場合、受遺者が受けるべきであった財産は、遺言者が別段の意思を遺言中で表示していた場合を除き、相続人に帰属する(995条)ことになります。

【参考図書に挙げられているケース】
Aには,妻Wと子X・Yがいるが,現在はWらのもとを離れ,Fと同居している。Aは,「遺産の5分の3をFに譲る」との公正証書遺言を残して死亡した(割合的包括遺贈)。
しかし,FはA死亡後2週間たって,遺贈を放棄する旨の意思表示を家庭裁判所で行った。


この場合、Fが受けるはずであった5分の3の遺産割合は、
( 2:1:1)の割合で、W,X、Yに帰属する。
その結果、この遺産割合は、Wに(10分の3)、XとYにそれぞれ(20分の3)帰属する。


 6 遺贈と権利変動
 特定物の遺贈は、遺贈の効力が発生すると同時に目的物の所有権が受遺者に移転する(判例)とされています。
 不特定物の場合は、対象物を特定するという遺贈義務者の行為がなければ移転しない(遺贈の効力が発生した時点では、未だに所有権は移転していない)とされています。

 遺贈による権利変動を「第三者」に対しても主張したい場合は、対抗要件(不動産の場合は登記)が必要です。



7 遺贈目的物の滅失等と物上代位(999条1項)

  遺贈の目的物が、形を変えてしまった場合には、一定の場合、形を変えた後のものが代わりに遺贈されることがあります。

【参考図書に挙げられているケース】
Aは,「甲土地をDに譲る」との公正証書遺言を残して死亡した。
相続人は,妻Wと子X・Yである。ところが,遺言書作成後,甲土地は駅前再開発計画に組み込まれ,補償金4,500万円でK市に土地収用されることとなった。
補償金はいまだ支払われていない。

(この場合)
  補償金請求権を遺贈の対象にしたものと推定する(999条1項)ことになります。
   なので、Dさんは、甲土地はもらえませんが、補償金を市に請求できることになります。 

文 弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所
by hideki1975da | 2012-03-02 17:45


誰にでもわかる平たい言葉で、相続法を解説するブログです。 神戸シーサイド法律事務所所属 弁護士村上英樹


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