第18回 遺言(2)~遺言能力、有効・無効、撤回など

 今回は、遺言をする能力、遺言が無効になるのはどんな場合か、などについておはなしします。


1 遺言能力

 遺言をするのは多くの場合、高齢の方です。たとえば、認知症が進行している方が遺言をされることが可能なのでしょうか。
    
① 制限能力制度の不適用(民法962条)

遺言については、民法一般の行為能力と異なる規定が定められています。

たとえば、民法一般では20歳で成年となり行為能力があるということになります(逆に、20歳未満は未成年者であり行為能力が制限されていることになります)が、遺言の場合は、15歳に達しておれば遺言することができます。(民法961条)

② 成年被後見人の遺言についての制限

成年被後見人(成年後見制度の適用を受けている人)の場合は、次のように定められています。

本心に復しているときに、かつ、医師2人以上の立会いのもとに、おこなわなければならない(民法973条) 

  なので、一定の条件を満たせば、成年被後見人でも遺言は出来るということです。


 また、後見人(及びその配偶者、直系卑属)の利益になる遺言については、原則として無効とされており(民法966条1項)、例外として、後見人が被後見人の直系血族、配偶者または兄弟姉妹である場合は有効(同条2項)とされています。
  「被後見人が後見人の食い物にされないように」という配慮から出た規定ですが、一定の親族の場合の例外があるので、中途半端な規定になっているとの批判もあります。 

③ 意思能力のない者の遺言は無効となります。
  「自らがした遺言の意味を理解出来る能力」が必要です。
  従って、認知症があったとしても、自分のした遺言の意味を理解できる能力があるならば、有効な遺言が出来ますが、重度の認知症でそれすら理解できないと言う場合には、遺言をしても「意思能力がないので無効」となります。

2  遺言の効力

 ① 民法総則の無効・取消事由

意思無能力による無効と公序良俗違反による無効を除き、遺言中の身分上の事項(認知など)には適用されず、財産上の事項にのみ適用されるとされています。

  ↑ ここは少しややこしいので、法律を勉強している人以外のかたは、とりあえず気にしなくてもかまいません。

② 遺言の効力発生時期
 (a) 原則として、遺言者の死亡時が効力発生時期です。
(b) 例外として、もし遺言事項について停止条件がつけられていた場合(「息子が大学に入学したときは」などが停止条件)には、条件成就(例 大学入学)の時から効力を生じる

3 遺言の撤回

① 遺言撤回の自由(民法1022条)
 遺言は一度つくったとしても、その人の生存中は、いつでも何度でも撤回できます。
 それは、遺言は、表意者(遺言する人)の最終意思の反映だから、です。

② 撤回の意思表示の方法
 「遺言の方式に従って」行わなければならない(1022条)とされています。
 内容証明郵便等では撤回できません。
   つまり、前にした遺言を撤回するときにも、また改めて遺言を作って「撤回する」ということを書かなければならない、ということです。


③ 撤回擬制  ※「擬制」とは、「みなす」という意味です。
 
   次の場合は遺言が撤回されたものとみなされます。

  (a)  前後の遺言が内容的に抵触する場合(抵触遺言。1023条1項。)

【参考図書に掲載されているケース】
Aは旧遺言で「甲土地をHに譲る」と書いていたのを,新遺言を作成した際に「甲土地をGに譲る」と書いた。


   → 甲土地の遺贈について、新遺言で旧遺言と違うこと(抵触すること)をかいたので、Aさんの「最終」意思は旧遺言と違うことがはっきりしました。そこで、旧遺言は撤回されたものとみなされます。

(b)  遺言の内容と、その後の生前処分とが抵触する場合(1023条2項)

これは、たとえば、遺言で「自分の死後、甲土地をHに譲る」と書いたのだけれども、その後に、生きている間に甲土地を他人に譲ってしまった場合などです。
    この場合も、遺言した人の「最終」意思は、遺言に書かれたことと違うことがはっきりしていますので、遺言は撤回されたものとみなされます。


(c)  遺言者が故意に遺言書または遺贈目的物を破棄した場合(1024条)
    これも、故意に遺言書などを破棄する行為から、遺言者の「最終」意思が遺言と違う、ということと考え、遺言は撤回されたものとみなされます。


④ 撤回遺言の撤回


[原則]撤回遺言を撤回しても、旧遺言が復活することはない(1025条本文)とされています。

  撤回の撤回・・・「やめるのをやめた」というややこしい話ですが、次のケースのような場合です。

【参考図書にあるケース】
Aは,1999年8月1日に自筆証書遺言を
書き,「甲土地を長男Xに譲る」と記した。
その後,Aは,考えを変え,(この遺言を
破棄すればよかったものの,この所在を
失念したため)2000年12月31日に別の
自筆証書遺言を書き,「1999年8月1日に
私が書いた遺言は,すべてなかったことに
する」と記した。さらにその後,Aは,さ
らに再考し,2002年1月1日に,「2000年
12月31日に書いた遺言は,なかったことに
する」と記した。


※ この場合では、1999年の遺言も2000年の遺言もなかったことなります。
  2000年の遺言が撤回されたからと言っても、一旦撤回された1999年の遺言が「復活」することはありません。



[例外1]但し、あらためて旧遺言の通りにする意思を表明する遺言をしたときは、旧遺言が有効になる(最高裁判例H9.11.13)。

 これは、撤回遺言を撤回する、と書いただけでなく、もともとの遺言のとおりにすることを明記した場合です。


【参考図書に掲載されているケース】
Aは,1999年8月15日に自筆証書遺言を書き,「甲土地を長男Xに譲る」と記した。
その後,Aは,考えを変え,(この遺言を破棄すればよかったものの,この所在を失念したため)2000年12月31日に別の自筆証書遺言を書き,「1999年8月15日に私が書いた遺言は,すべてなかったことにする」と記した。
さらにその後,Aは,さらに再考し,2002年1月1日に,「2000年12月31日に書いた遺言はなかったことにして,1999年8月15日に書いた遺言をもとどおりに認める」と記した。


※ この場合は、下線部をあえて書いたことによって、1999年遺言の効力が復活します。


[例外2]また、遺言の撤回が詐欺又は脅迫によるものであった場合にも、旧遺言は復活する(1025条但書)。


【参考図書に掲載されているケース】
Aは,1999年1月1日に,「甲土地をD社に遺贈する」との自筆証書遺言を書いたが,このことを知った子Xから遺言を書き直すようにせまられて暴行を加えられ,2000年12月31日に,「甲土地をXに譲る」との自筆証書遺言を書いた(Xについては,この行為が相続欠格事由に該当する点に注意が必要である[891条4号])。


※ この場合も、1999年遺言は民法1025条但書の定めにより、復活します。

文 弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所
by hideki1975da | 2012-02-08 18:02


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