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第11回 遺産共有

1 遺産共有とは何か?

  相続が始まる(人が死亡する)と、複数の相続人は各自の相続分に応じて相続財産を共有する(民898条)ことになります。
 この共有状態のことを「遺産共有」と言います。

  この遺産共有状態は、「遺産分割」までの暫定的な状態です。

 【イメージ】
相続の開始(=Aの死亡)→ 遺産共有 → 遺産分割

   
   例えば、Aさんの遺産に土地があって、Aさんが死亡するとまず、その土地はAの相続人の共有になって、そののちに、遺産分割の話がついたときに、最終的に誰のものになるか決まる、という仕組です。 


2 共有される相続財産と、分割される相続財産

(1) 全ての財産が共有になるわけではない

  財産の種類によって  
相続開始と同時に  → 1 共有になるもの
      2 (共有にならずにいきなり各相続人に)分割されるもの
   

                     という区別があります。

(2) 具体例
 
① 金銭債権

   (a) 当然分割である(学説上対立はあるが、実務は当然分割。共有にならない

  【ケース】
Aが死亡し,相続人は子X・Yである。
Aは銀行に対する1000万円の預金がある。

この場合、預金は、

遺産分割を待つまでもなく、法律上当然に法定相続分に従い分割される。

     というのが判例の立場です。

このケースでは、相続開始(Aの死亡)と同時に、X、Yが各自500万円を分割承継することになります。

 つまり、遺産分割の話し合いが未了であっても、Xは、銀行に対し、500万円の払戻を請求できる、ということです。(Yも同様です。)


平成28年12月19日最高裁判決により、預貯金については、当然に分割されるのではなく、遺産分割の対象となると判例変更されました。

(b) 注意
      ただし、金融機関(銀行など)の実務においては、共同相続人の1人が自己の相続分に相当する額の払い戻し請求をしても応じてくれない例があります。金融機関がトラブルを恐れるという理由が多いと思います。
 このような場合は、訴訟をすることになる場合があります(弁護士を代理人として交渉して、支払って貰えた例もあります)。

(c) 遺産分割との関係
本来、預金は、遺産分割の話し合いをする必要のないものですが、共同相続人全員が同意すれば、これを遺産分割の対象財産の中に取り込んで分割協議の対象にすることは差し支えありません。

  平成28年最高裁判決により、預貯金は遺産分割の対象となる旨判例変更されています。
 
 現実にも、不動産などに比べて、預金を配分するのであれば微調整をすることもしやすいので、預金を含めて遺産分割の話し合いをすることが現実的な解決に役立つ場合が多いです。

(d) 関連問題-実務上多く見られる問題

      【ケース】

       母Mが死亡し、相続人は、子であるX、Yの2人である。
       Xは、母Mの預金通帳等一切を管理していた。
       母Mの死後、Yは、遺産分割に当たり、Mの預金について残高や今までの出入金の記録を入手したい。  

      このような場合、Yさんは単独で(Xの同意や印鑑などはなくても)銀行に対して、預金の取引履歴を開示するように請求できます。     


      「共同相続人の1人は、金融機関に対して、預金経過の取引履歴(全体)を開示請求できる」というのが判例の立場です。共同相続人の1人は、被相続人の預金者としての地位を相続していると考えられるから、というのが理由です。



② 金銭債務

     借金などはどうなるのでしょうか?

(a) 原則は、当然分割である

      【ケース】
Aが死亡し,相続人は子X・Yである。
AにはBからの1000万円の借入金債務があった。


   この場合の相続関係は、次のようになります。

   Bに対する1000万円の債務は、相続開始(Aの死亡)と同時 に、X・Yが各自500万円について分割承継することになります。

 ですから、Bさんとしては、Xに対して500万円、Yに対して500万円貸金返還の請求をすることができることになります。

(b) 遺産分割との関係

  預金の場合と同じで、本来は遺産分割をする必要はないのですが、共同相続人が同意すれば、遺産分割の対象財産にすることができます。

ただし、それによって、上記(当然分割された場合)と異なる債務の引き受け関係になったとしても、債権者に対しては無条件に免責されません(免責には、債権者の承諾が必要)。※たとえば、上の例で、遺産分割の話し合いの結果、Xが0円、Yが1000万円の債務を承継することにしたとしても、Bさんが承諾しなければ、BさんはXに対して、本来の500万円の請求が可能だということです。

(c) 注意を要するケース 不動産賃借人の賃料債務など

     [ケース](弘文堂「相続法 第3版」潮見佳男著より引用)

Aは,妻W,子X・Yとともに,月額18万円の賃貸マンションで生活していた。
Aが死亡し,W・X・Yが相続した。Wらは,現在のマンションに住み続けたい。


これも、金銭債務なので、一見、上の(b)によれば、分割されるのではないかという風に見えます。もしそうだとすると、毎月、Wは9万、Xは4万5000円、Yは4万5000円の賃料支払い義務を負うことになります。逆に言えば、家主は、W,X,Yのそれぞれに、少額ずつの賃料支払い請求をしなければならない、ということになります。

     こう書けば、もし、(b)のルールで「当然分割」とすれば、家主の立場からして相当不便なことになるのでは?ということに気づかれたでしょうか。

     この場合は、賃料支払い債務について、

「性質上の不可分債務」(賃料債務は、一つの建物を借りるという共同不可分に受ける利益の対価であるため、分割できないとされている。判例。)

として、連帯債務と同様に、債権者は、どの債務者に対しても、全部の履行の請求をすることが出来る(民法430,432条)というのが判例の立場です。

      つまり、家主は、W,X,Yの誰に対しても18万円の賃料請求をすることができます。(もちろん、本来の3倍の賃料を取れるわけではなく、誰かが家賃全額を払ってしまえば、他の人の義務も消えます。)
 

③ 金銭

     これは預金のことではなくて、現金(いわゆる現ナマ)として存在する金銭のことです。

これは共有とされます(当然には分割されない)。

  不動産や他の動産と同じく「有体物」であり、遺産共有となり、遺産分割の対象とされます。


★ 以下は、少し細かい内容です。


(3) 共有される遺産の管理

① 共有に関する規律の適用

(a) 保存行為は、相続人が各自で単独で行える。(民法252条但書)
例  貸付金債権の時効中断措置、建物の修繕など

    (b) 利用・改良行為は、相続分による過半数で決する。(民法252条本文)
 
    (c) 個別財産の処分(建物を売ってしまうことなど)は全員の同意による。


② 審判前の保全処分(家庭裁判所に遺産分割の審判を申し立てた場合)
  
     遺産分割の審判がなされる前に、誰かが勝手に処分してしまうのではないかと危惧される場合などに、当事者が家庭裁判所に申し立てて、保全処分がなされることがあります。

     遺産管理者の選任などがなされます。

③ 熟慮期間中の遺産管理に関する特則

(a) 自己の財産におけるのと同一の注意をもって管理する(民918条1項)

    (b) 相続財産の保存に必要な処分

     必要に応じて(共同相続人間での対立が激しい場合など)、利害関係人または検察官の請求により、家庭裁判所が命じてすることができます(民918条2項)。
たとえば、相続財産管理人の選任、財産処分の禁止などが、これにあたります。


(4) 遺産確認の訴え

ある財産が遺産の範囲に入るかどうかの確認の訴えを起こすことが出来ます。これは、遺産分割の前提問題です。

 文 弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所

by hideki1975da | 2011-10-07 14:38


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