第8回 相続資格について②~放棄と承認

1 総論
① 意義

  人が死亡すると、相続人は、自分の意思とは関係なく、亡くなった人の財産関係を継ぐ立場になります。
  しかし、亡くなった人(被相続人)に多額の借金がある場合もあるし、そうでなくても相続したくないという場合もあります。
  そこで、民法は、相続する側の利害や希望にあわせて、選択の余地を残しました。

相続するかどうか、と言う場面では、相続人には3つの選択肢があります。

 相続放棄    相続の効果を確定的に消滅させる

 単純承認 相続の効果を確定的に帰属させる

限定承認 被相続人の残した債務や遺贈を相続財産の限度で支払うことを条件として相続を承認する


  以上の3つの選択肢です。上の2つ「相続放棄」と「単純承認」は、要するに相続するかしないかなので、分かりやすいと思います。
  「限定承認」は分かりにくいかもしれませんが、要するに、借金なども相続するが、相続財産がある範囲で支払うだけで「相続財産以外の、もともとの自分の財産まで持ち出して払わなくてもよい」という限定をつけて相続するということです。

② 熟慮期間

  相続人には相続するかどうかの選択の余地があることになりますが、これがいつまでもはっきりしないのでは色々と法律関係が不安定になり不都合が発生します。
  そこで、民法915条は、相続放棄・承認の意思表示をすることが出来る期間を定め、それを過ぎて意思表示がなされない場合は単純承認したこととみなすことにしています。 
  ここでいう「相続放棄・承認の意思表示をすることが出来る期間」のことを熟慮期間といいます。

「熟慮期間」は次のように決められています(民法915条1項)

     自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月
→この間に限定承認又は放棄がなされなければ単純承認とみなす


「自己のために相続の開始があったことを知った時」
 被相続人の死亡  と  自分が相続人であること とを知ること

※  但し、財産の調査2時間がかる場合などは、延長することができます。
     延長は、家庭裁判所に請求をすることによってできます(民法915条1項但書)。

  

※  実務上問題となりやすいケースとして、弘文堂「相続法 第3版」に挙げられているケースを引用すると次のとおりです。

[ケース]
70歳のAには,子Xがいるが,XはAのもとを離れて自活していた。
Aは,国民年金とXからの仕送りで生活していたところ,心不全で急死した。
XはAの唯一の相続人であり,Aの死亡をすぐに知らされている。
A死亡後4か月を経た後,Xのもとを金融業者Gが訪れ,「1年前にAはSのために500万円の借金の保証人になっていた。契約書もここにある。Aが死亡した以上,相続人であるXが保証債務を履行せよ」と迫った。
Xにとっては,寝耳に水の話であった。

 
  このようなケースについて、最高裁判所の判例があり、一定の事情がある場合には、「3か月」を計算する際のスタート時期を事情に合わせて考えることによって、相続人を救済することを認めています。


 最高裁s59.4,27の趣旨
(ⅰ)3か月以内に放棄等しなかったのが被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、

かつ、

   (ⅱ)当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、上記のように信じるにつき相当の理由があると認められるときには、例外を認める。

  この場合は、「相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時」とする。

 ※ 上の最高裁の基準は、3ヶ月間を過ぎても救済される(放棄できる)のはかなり限定された場合だけ、という印象があります。
 実際には、後になって借金があったことが判明するケースは上記のような判例の基準に当てはまらない場合でもたくさんあり、それで放棄が認められないのは相続人にとってあまりに酷であるというケースも多々あります。
 上記判例の基準に当てはまらない場合でも、後に借金があることが判明し、放棄をしたくなるのも無理もないというケースには、家庭裁判所に対して、放棄の申述という手続を行うのが実際です。


③ 再転相続
   
     比較的まれですが、次のような場合があります。

[ケース]
Aが死亡し,子XがAを単独相続した。
ところが,A死亡の2か月後に,Xも死亡し,W(Xの妻)がXを単独相続した。
Xは,生前にAの相続について承認も放棄もしていなかった。


    ※ A→X→Wの相続です。
     
    ※ このような場合、亡きXの選択権(XがAについての相続について承認するか放棄するか)も含めて、Cが承継することになります。つまり、A→Xの相続について、Wが承認又は放棄を選択できることになります。


④ 選択の撤回・取消・無効
    いったんされた相続放棄・承認の意思表示については、撤回できないことになっています。(民法919条1項)。

★ 以下、3つの選択肢それぞれについて、「2 相続の放棄」「3 限定承認」「4 単純承認」の項目に分けて解説します。

2 相続の放棄について

  相続の放棄は要式行為の一種であり、決まった形式で行うことが必要です。

この場合の決まった形式というのは、家庭裁判所での申述をし、受理審判を受けることです。

相続の放棄をした効果は次の通りです。
  - 相続放棄をした者は、最初から相続人にならなかったものとみなす(民939条)。
 放棄者の子らがいても、代襲相続は発生しない。

3 限定承認について  ※少し難しいので、余り興味のない方は飛ばして頂いてもかまいません。

  限定承認は、上に書いたように、相続するのですが、債務については一定の限定された責任のみを負うというものです。

  ただし、利用されにくいのが現状です。
その理由は、  1 熟慮期間内に、財産目録を作成・提出する必要があること
         2 共同相続人全員でのみできるとされていること
によると考えられています。 
 
限定承認の効果は次の通りです。
    ・ 相続人の固有財産 と 相続した相続財産 が分離して取り扱われる。
     ・ 債務は全額承継される(但し、「相続債権者に対しては、相続財産をもって弁済をする。」民929条。相続財産を限度とする物的有限責任。)
・ 一種の清算手続(債権届出についての公告、配当)が行われる。


4 単純承認について

  単純承認の意思表示をすれば、単純承認となることは当然です。

  ですが、承認するとの意思表示がなくとも、次の事実があるとき、相続人が「単純承認」をしたものとみなすことになっています(民法921条)。

  これを法定単純承認といいます。

法定単純承認
   承認するとの意思表示がなくとも…
(ⅰ) 相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき(民921条1号本文)
(ⅱ) 相続人が熟慮期間内に限定承認も放棄もしなかったとき(2号)
(ⅲ) 相続人が限定承認または相続放棄の意思表示をしたが、その意思表示をした後に相続財産の全部または一部を隠匿したり、ひそかにこれを消費したり、悪意で財産目録に記載しなかったとき(3号本文)

これらのことがあれば、単純承認があったとみなされる。

 文 弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所)  
by hideki1975da | 2011-10-04 14:11


誰にでもわかる平たい言葉で、相続法を解説するブログです。 神戸シーサイド法律事務所所属 弁護士村上英樹


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