第9回 相続人の不存在~相続財産管理人、特別縁故者など

1 相続人不存在制度とは?~2つの柱

  今まで、人が死んだときに、相続人は誰になるのかとか、相続人は承認するのか放棄するのか、という問題を解説してきました。
 ですが、人が死亡したが相続人が1人もいない場合はどうなるのでしょう?
 また、相続人全員が相続放棄をした場合はどうなるのでしょう?

 こういう場合について、「相続人不存在」の制度があるので、見ていきましょう。
 民法は、次の(ⅰ)(ⅱ)の2つの仕組、手続による処理を用意しています。


(ⅰ)相続財産法人 をつくる

      これは、相続財産の管理・清算をするための仕組です。
      後に説明しますが、「法人」ですから、会社などのように、人間(「自然人」といいます)ではないけれども、財産や権利・義務を持っている者というものを考えるということです。
 少しややこしいですが、財産処理のための技術のため、そういう風に考える、というイメージです。

(ⅱ)相続人不存在を確定するための手続
         
      相続人不存在といっても、たとえば、戸籍上相続人が居なくても、実際には存在する可能性もゼロではありません。
 それで、念のために、相続人が居るかどうか探索する手続を用意しています。
    
 
2 相続財産法人
(1) 相続財産法人の成立

  「相続人のあることが明らかでない」こと  これが《要件》です。

    次のようなケースが考えられます(いずれも、弘文堂「相続法 第三版」に挙げられている例です)。


[ケース1]
Aが死亡したが,Aの戸籍からは相続人となるべき者がみつからない。

[ケース2]
Aが死亡した。Aには,子X・Yがいるが,XはAにより廃除されており(なお,相続欠格の場合も同じ),また,Yは家庭裁判所で相続放棄の意思表示をした。そのほかに,Aに推定相続人は存在しない。


  被相続人死亡の時点で、相続財産法人は、(法律上は)当然に成立するとされています。

    「当然に」というのは、何が当然なのか?と思われると思いますが、ここでいう「当然に」は「何か特別な手続をする必要もなく」という意味です。

    つまり、上記のようなケースでは、Aさんが死亡した時点で、相続財産は「法人」となります。
   「法人」となる、ということは、例えば、その相続財産に関係する裁判については、「亡Aの相続財産法人」が原告になったり被告になったりするということです。

   もし、Aの生前、Aに対して訴えを起こすつもりの人がいたとして、Aが死亡したあとは、「被告 亡Aの相続財産法人」と書いた訴状を作成して、訴えを起こすことになります。

  つまり、なぜ、わざわざ財産を「法人」とするかといえば、例えば、このような訴訟を起こす等の場合に、処理しやすいようにする、という技術的な理由ということになります。

    
(2) 相続財産管理人

   「相続財産法人」で出てくる「法人」というと、会社などをイメージします。
   会社であれば、代表取締役などがいて、会社の業務を執行したりします。
   あたりまえのことですが、会社は人間(自然人)ではないけれども、実際に動かすのは人間(自然人)なのです。
   同じように、「相続財産法人」についても、その「法人」を実際に動かす人が必要になります。
   それが「相続財産管理人」と考えるとよいでしょう。

① 家庭裁判所による選任

相続財産管理人は、利害関係人または検察官の請求によって、家庭裁判所が選任します。
利害関係人とは、債権者、特定遺贈の受遺者、徴税権者としての国、特別縁故者として遺産の分与を申し立てる者などが考えられます。


② 相続財産管理人は、相続財産法人の法定代理人という地位にあります。
     
  「法定代理人」とは、未成年者に対する親権者のように、法律で代理人と決められいて、本人の代わりに契約などの法律行為をすることが出来る者です。  

  相続財産管理人は、相続財産の現状調査義務や財産目録作成義務などを負います。


(3) 相続人の存在が後日に明らかになった場合

     ところで、当初相続人は不存在と思われていたが、後日相続人が居ることが分かった場合はどうなるでしょう?
 次の通りです。

① 相続財産法人は当初より存在しなかったことになる(民955本文)
② 相続財産管理人の地位は?
①にもかかわらず、既にした行為は有効です。
(判明した)相続人が相続の承認をするまで、「相続人の法定代理人」として代理権が存続します。


3 相続人不存在を確定するための手続-相続人の捜索と遺産の清算

  「相続人不存在」の制度についての2本の柱、その1つは「相続財産法人」でした。
  もう一つの柱は、「相続人不存在を確定するための手続」です。
 
  念のため相続人が本当にいないかどうかを調べながら、相続財産の処理がなされることになります。

(1) 相続財産管理人の選任-出発点
(2) 家裁による公告(相続人捜索公告としての機能)
     2ヶ月間
(3) 債権の申し出の公告 (2か月を下らない期間)

(4) 清算開始              ★ここで、借金などの債務の弁済、配当などが行われる。

(5) (検察官又は利害関係人の請求によって)最後の相続人捜索の公告

(6) (残余財産があれば分配)

  ★ 借金等を支払っても財産が残っていた場合、相続人もいないので、一体誰がそれを引き継ぐのか?という問題になります。それが次の「4 残余財産の帰属」の問題です。


4 残余財産の帰属

  だれも、承継する者がいない場合、最終的には、相続財産は国庫に帰属する(国のものになる)ことになります。
 しかし、国のものにするより前に、それよりは、故人(被相続人)と関係の深かった者に継がせるということのほうがよいのではないか、というのが「特別縁故者への財産分与」の制度です。

(1) 特別縁故者への財産分与

① 1962年民法一部改正により導入されました。 民法958条の3

② 相続人がいないことが確定した場合にだけ、考えられる制度です。

③ 特別縁故の意味とは、例えば次のようなものです。

(a) 死者と生計を同じくしていた者
    内縁配偶者、事実上の養子など

(b) 死者の療養看護につとめた者

(c) その他死者と特別の縁故があった者

④ 特別縁故資格を有する「人」

  自然人に限らず法人でも良い(会社、財産法人、宗教法人、学校法人、地方公共団体など)

⑤ 分与の手続

  最後の相続人捜索期間満了後3か月以内に、家裁に分与の申立をする必要があります。

⑥ 分与される財産

「清算後残存すべき相続財産」から分与されます。
全部か一部かは家裁の裁量で決まります。

(2) 遺産の国庫への帰属
(1)を経た後の残余財産は、国庫へ帰属します。

 文 弁護士 村上英樹(神戸シーサイド法律事務所)  
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by hideki1975da | 2011-10-04 15:30


誰にでもわかる平たい言葉で、相続法を解説するブログです。 神戸シーサイド法律事務所所属 弁護士村上英樹


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